不動産が「負動産」と呼ばれる時代に

2024年09月25日

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不動産を所有していない人にとっては、不動産を所有することは一見、羨ましいものに映るかもしれません。しかし、不動産所有者には、外からは見えにくい多くの苦労とリスクが伴います。以下に、その具体的な問題点を整理して説明します。

1. 不動産管理の負担

不動産の管理は非常に手間がかかります。適切に管理されていない不動産は、近隣住民に迷惑をかけるだけでなく、災害の原因になることもあります。さらに、所有する不動産が他人の財産や生命に被害を与えた場合、損害賠償責任を問われることもあります。

土地の管理

土地の管理には、定期的な草刈りや樹木の伐採が必要です。これを自分で行う場合、時間というコストがかかり、業者に依頼すると費用が発生します。怠ると、樹木が隣接地に越境したり、倒木が発生し、他人に損害を与えるリスクが高まります。これにより発生した損害の責任は、土地の所有者が負わなければなりません。

建物の管理

建物の管理も同様に重要です。定期的な換気、害虫駆除、屋根や外壁のメンテナンスに加え、不法侵入の防止も必要です。湿気によるシロアリ被害や、劣化した屋根材や外壁が強風や地震で飛散し、他人に被害を与えるリスクもあります。これらの損害に対する責任も、建物の所有者にあります。また、管理が行き届いていない建物は、不法投棄や不法占拠の標的になりやすく、それによってさらに周囲に被害を与えるリスクが高まります。

2.所有者としての責任

不動産を所有することで、自然災害や人的被害に対する責任を負うことになります。

土砂崩れのリスク

所有する土地が災害によって土砂崩れを起こし、近隣に被害を与えた場合、その撤去費用と責任を負うのは土地の所有者です。例外的に自治体が公費で撤去するケースもありますが、基本的には個人所有の土地から発生した被害は、所有者が対処しなければなりません。

倒木のリスク

所有する山林で倒木が発生し、他人に被害を与えた場合も同様です。例えば、熊本県で発生した事故では、倒木が道路を走行中の車に直撃し、運転者が死亡する事例がありました。この場合、既に土地の所有者が亡くなっていたため、相続人が6000万円の損害賠償請求を受ける事態となりました。こうした倒木による事故は、日本全国で頻繁に発生しています。

不法投棄のリスク

所有する土地に不法投棄される可能性もあります。特に道路沿いや山林などは、意図的にゴミを捨てられるリスクが高いです。防犯カメラを設置して犯人を特定出来る証拠を撮らない限り、警察も動きにくく、捜査が進んでも投棄されたゴミの撤去は所有者の責任となります。公金で撤去することはできず、最終的には所有者が費用を負担するか、犯人が自費で撤去するまでそのまま残ることになります。

3. 大規模災害の増加

近年、地球温暖化や気候変動により、大規模な自然災害が増加しています。短時間での局地的な豪雨による土砂崩れや浸水が頻発しており、これが土地所有者にとって大きな負担となっています。

災害によるリスク

熱海の土石流災害などは記憶に新しい事例です。これらの災害は、土地が「負動産」と呼ばれる理由の一つでもあります。大雨の頻度が10年前の1.7倍、集中豪雨は50年前の1.4倍増加していると言われており、これにより生じる被害の責任は、土地の所有者が追及される可能性があります。

4. 市場の変化

不動産を長期間所有することで、その資産価値が大きく変動するリスクがあります。過去にはバブル経済による地価の高騰がありましたが、その後のバブル崩壊によって土地価格は大幅に下落しました。

市場の影響

最近では、金融緩和政策の影響で住宅用地の需要が高まっていましたが、物価上昇に伴う建築費の高騰や日銀の利上げ決定により、住宅の需要が減少し、取引価格が下落する兆候が見られます。また、長期的に土地を所有している間に、大雨による浸水履歴がついてしまうと、資産価値が損なわれるリスクもあります。日本の人口減少に伴い、今後も土地の需要が減少する可能性が高いことは容易に想像できます。

5. 税金の負担

不動産を所有することにより、固定資産税や都市計画税などの税負担が発生します。

税制の影響

近年では「特定空家対策特別措置法」が施行され、管理が行き届いていない空き家に対する課税が強化されています。行政は、災害を引き起こす恐れのある不動産に対して、より厳しい対応をとるようになっています。しかし、これらの税金を支払い続けたとしても、資産価値が上がる保証はありません。土地を所有し続ける限り、永続的に支出が続くのです。

6. 相続における「争族化」

相続において不動産はしばしば問題の種となります。現金のように簡単に分割できないため、相続人同士の争いが生じやすくなります。

相続財産としての不動産

不動産の評価額が存在しても、それはあくまで机上の計算に過ぎず、実際には負債にしかならない不動産も多くあります。例えば、農業を行わない相続人が農地を相続した場合、それは売ることもできず、維持コストだけがかかる負の遺産となる可能性があります。アパートや一戸建ての不動産を相続した場合でも、賃貸経営には定期的な修繕が必要であり、それなりの資金が求められます。場合によっては借金をして修繕を行わなければならず、入居者とのトラブルも引き継ぐことになります。さらに、相続人が既に別の住居を所有している場合、大きな実家を相続しても住むことができず、売却するにも感情的な葛藤が伴い、問題が先送りされるケースも少なくありません。こうしたことから、不動産は「負動産」として相続においても厄介な存在となり得ます。

結論

不動産所有にはメリットもある一方で、上記のようなリスクが存在します。特に、現代においては、こうしたリスクが「負動産」としての側面を強調しつつあります。不動産を所有する際には、これらのリスクを十分に理解し、適切な管理や売却も含めた対策を講じることが重要です。